ここは鶴岡、駅から離れ歩くこと20分。
路地に3軒バーがある。
89と書いて「やぐ」。
ここに現役最高年齢女性バーテンダー矢口さんがいらっしゃる。
辺りに人気一切なし。
やっているのかとドアを開ければ、満杯である。
マイルスのマイファニーバレンタインを背もたれに
老若男女がくつろいでいる。
カウンターの中には矢口さん一人。
ブルーのストライプオックスフォードBDシャツに紺の蝶ネクタイ
赤いエプロンがきれいに映える。
白髪のショートヘアーに柔和な笑顔が素敵な、かわいい人だ。
「いらっしゃいませ」。人懐っこい笑顔が、外の寒さを吹き飛ばす。
「さて、なにをお上げしたらよろしいかしら」。
多少しわがれてはいるが若々しい。
律儀な口調に品が漂う。
季節は寒いが、ここは名物「冷っこいの」だ。
ウォッカトニックを冷やした胴のマグカップで飲む、スカイボール。
キリッと冷えた液体が、体の芯を真っ直ぐにする。
ご主人がなくなって、16年。
「もう40年近くやってますから、主人よりこの仕事が長くなってしまいました」と笑う。
オリジナルNO1を頼むと
シェイカーを振る。
お見事、切れがいい。
グラスになみなみ。
「お口からお迎えしてください。飲まれましたらまだシェイカーに入っているようですので、継ぎ足します。お待たせした分多く作りました」。
しゃれも利かす 70数歳のバーテンダー。